同人界にもういられない
と思ったことをなんとなく思い出した。
あれほど愛してあそこが自分の居場所と言わんばかりに好き勝手していたのに、いつの間にか自分の形はあそこの中でも奇形になっていた。
最初はどこにでもいる腐女子だった。
ただ一番最初にPCで検索したのは、マイナーでリバで広大なネットで人気なジャンルで好きなCPのリバはたくさんあるのに、推しCPは1人しかいないもので、まあなんとなく荊のフラグはじんわり感じていたのだが、それでもそこそこ好きなのは王道だったりして寄り道つまみぐいは楽しかった。
マジ惚れ活動したいくらいのメインCPは大体マイナーだったのだけど。
7年。
その間にジャンル替えは4回。
最初は食らいつくように3年、人外。
あれ以外愛さない覚悟が錆びついて折れて他者への好きを諦め認めて2年、メカ。
追いかけても全てを網羅できない沼に疲れて原点に戻るように1年、猫。
そしてまた偶然の出会いに1年、人間。
それでも最初のジャンルがオンリーあれば本出したりして、捨てないようにただしがみついて、あれこれ描いていた。
最初は中身の描けないエロ、だんだん原作読み込みの原作厨になって、ギャグの4コマ描きになって、だんだん重い内面やれストーリー絡め描きになって、それから、その果てに。
だんだん中身にこだわるようになっていった。
あのシーンは、あのセリフは、この言葉遣いは、総合して分析するのが好きだった。
特に自分に満たされている奴なのかどうか、どんな心の穴が開いていて何で埋めようとしていて、どのような苦しみや飢えを感じ、それにどこまで自覚的なのか、が一番よく見るポイントだった。
それをコロコロやらボンボンの某作品でやっていたのだから、まあ全く。意外と親和性高いんだけどねあそこらへんの界隈。
そういうやつだから世界展開メディアミックス、違う作者や展開を平気で繰り広げられると本当に苦しい。みやこはそういう作品に向いていない。
一つの作品の一つのキャラの内面だけを掘り下げる、他の社会条件やら他のキャラは置いておいて、ただそれしか見れない性分のようだ。少なくとも放っといたらそれをやりだす程度の向き不向き得手不得手。
一つのことしかできない。
みやこは、みやこが見ることのできるあのキャラの心の動きを描きたかった。
作者の中にもその要素はあるであろう、もしかしたら描かれたかもしれない心理故の行動、でも描かれなかったか、作者も自覚しきれてなかった要素を掘り下げて、
「限りなく作中のあのキャラクターがしてもおかしくない、ただ描かれていないだけ」
のことを描きたかった。
だってみやこにはあのキャラクターのあの気持ちが分かる気がしたのだ。ならば描くしかない、と、思っていたのだ。
もちろんそれは傲慢だし、対価もある。
まずひとつ、以前ならできていた単なる妄想ができなくなった。要するにオカズにできなくなった。単なる性的搾取ができなくて、けれど同じキャラを好きで同じあの子を描きたいと思う同志、そして昔の自分とよく似ていて話もわかる、ありえないことでもない、けれど、ただ、「あの子らしくない要素」の妄想が楽しめない。
必然性のないエロとか、ただひどくしたいとか、昔自分も描いたくせに、そうしたことが起こる可能性も実際存在しているくせに、胃が受け付けなくなった。話は合わせられるけれどつらい。
けれど、二次の創作とはそういうものも多く含む、そういうものも許される、そういうものなのだ。
自分が消化できないから存在を許さないというのは二次界においての二律背反、大いなる矛盾、口ではいくらでも存在していいとは言うけれど体が受け付けない、存在を拒否している、許していない、
完全なワガママで、これは苦しかった。
マイナーな界隈で人数も少なくていい人たちで、そう、好きな人たちだったし、向こうが寄せてくれる好意もひしひしと感じる、けれどみやこはそれに応えられない、つらい、話を合わせるのもつらい、だって本音を出したら「ソレハ嫌」って拒否してしまいそうで、向こうは単に好意を寄せてくれてるだけなのに。
ネットで向けられた好意が重くて、遠巻きに背中をなるべく見せないよう(見せたこともあったけど)一応は努力して逃げてきた、人の好意を受け取れなくて無下にして結構な数踏みにじってきた。
だんだん好意を向けられること自体は慣れてうまく受け取ることはできる、とは思うけど、それに対してどのくらい時間と気力でお返しするのかは未だに図りかねる。
これがひとつめの理由。
(だから自分が出す好意も叶わないことは絶対あるだろうなとは、当時からそんな覚悟は一応あったんだけどね。
根本的にコミュニケーションに不器用で、だから各ジャンル1人しか愛せないし、重い。愛が重すぎる)
だから愛したキャラを嫁と呼び、大体総受でメインの仲良いキャラとの絡みを描く感じだけれど、稀にこの2人でなくてはならぬ、というときがある。これまでの人生で2作品あった。
その組み合わせは大変マイナーで、作品とキャラ自体は有名でレギュラーなのに、なぜかその組み合わせだけは他に存在しないとか、そういう感じ。ひとつは公式では立場は敵だけど超相性よくて記憶喪失になったらソウルメイトになったり、敵のままでも絡みよくあったんだけど、同人で一切見なくて切ない。
もうひとつは単体映画の中のみのキャラたちで、全く絡みがなかった。
もっかい見よう〜とDVDを流したら、全く絡んでないことに衝撃を受け泣き濡らし、その事実を受け入れ再び描き、公式を見られるようになるまで1年かかった。
けれどどちらにも共通していることは、みやこはあの2人は会えば世界一いや宇宙一相性がいい、と感じ、信じていたことだ。
それはみやこの事実だ。
みやこだけの真実だ。
なんて傲慢なんだ。
本当にそれは事実なのか?
他に誰も認証していないのに?
公式が関係を明言していないのに?
長じて、気付いたことがある。
不動の組み合わせになるときは、2人とも甲乙つけがたいほどに大好きなのだ。2人とも、魅力をいつまでも語っていられるほど大好きなのだ。
要は、1つの作品に共感できる嫁が2人いて、愛おしすぎてくっつけてしまったのだ。
自分が共感できる部分を持ち合わせる人格だから、出会ったらニコイチのように惹かれるのではないか、それはみやこの中にその人物のその要素がそれぞれ比重重めに存在しているからではないのか、それはつまり、ただ作品にみやこを投影しているだけなのだ。
その2人がくっつく必然性は、読者がみやこだから、だけしかなかったのだ。
なんて
傲慢なんだ。
これがふたつめの理由。
最初の活動ジャンルというのは得てして特別なものである。要は童貞捧げちゃった初めてあげちゃった💖みたいなものだ。
多分、それだけの理由でみやこはあのジャンルに忠誠と人生を誓った。
最初が故の戸惑いと、費やした時間と、恥の多い妄想あれやこれや、そんな思い出と時間をたくさん詰め込んで愛と称した。
それは海外作品で、日本放送分はだいたい1/3。
アニメは不得意でそんなに見返さず、S4とS5は結局未だに未視聴(S6と7は見たけど)、いつか見るだろうと、半年ごとに一挙13話を見て消化して、それも時間と気力がつらくなってやめて、描きたいものが浮かばなくても意地のように思いつくものピンキリ描いて、そんな恥の多いジャンルだった。
それは時代ごとにリニューアルされる作品だった。
最初の公式原点は1983年だっけか、有名なのは2作目のシリーズ、みやこが惚れたのは3作目のシリーズ、そしてあの度作られたのが4作目、版元を吸収合併されて力を入れてのリニューアル。
よくできていた。
出来はすばらしい。
よく動くアクション、テンポよく進む展開、楽しい小粋さ、キャラクターの動き、性格もよく練られていて確立されている、こまめに入るえぐさ、救われなさ、ダークさ、シーズンが進むごとに鬱なんだろうなという予感。
すばらしい。
すばらしい!アドレナリン全開だ!名作だ!
でも、あの作品のあの同じ名前の子は、やっぱりちょっと、ほんの少々、違う人格なのだ。
前作にはまったときのようにどっぷり、同じ名前のあの子を愛せないみやこは自問する。
みやこは何を愛して何に縋って、何にアイデンティティ依存していたのだろう。
前作と同じ名前似たようなポジション立ち位置のあの子を愛するのは義務だろうか、そもそも何故前作のあの子を好きだったのだろうか、もしかして人気がそこまではないけど多少はあって、ジャンルの居心地がいいからあの子に落ち着いたのではなかろうか、最初に見た上手いサイトさんの影響?その後そのサイトの管理人さんがいなくなって、あのキャラ人気は落ち目になって主人公の攻めモブみたいな同人界の扱いになったから?かわいそうなあのキャラの良さ、かわいさ、すてきさを好きなようにいじれるから好きだったのでは?楽だったから居場所にしたかったのでは?あのときあれは本当に愛だったのか?別に認めてくれる人たちはいたけれど、そこそこの承認もされて、都合がよくて、だから?自分のため?
自分のためじゃダメ?そんなことはない、ない、けれど、
これがみっつめの理由。
昔のみやこの偽善ぶりが、気持ち悪かった。
今もきっとそうだし、逆にそんな自分のためにジャンルにいたらダメなのか、キャラのためじゃなければダメなのか、といえばそれもそれで気持ち悪い。規律の厳しすぎる親衛隊軍だ。しかも踏み絵で些細な違いすら異教徒としてあぶり出す狂気じみた軍隊だ。
けれどそんな自分にも気づいてしまって、何がよくて何が悪くて、正しくて正しくなくて、そもそも存在がグレーに許されている二次に正しさを持ち込むなんてナンセンスで、きっとみやこはまだこの気持ちを整理できていない。
ただ、
楽しみ方が変わって、
勝手に存在が肥大化して、
矛盾に押し潰されて、
逃げたくて、
それにもうそこに向き合うほどの体力も時間もなくて、仕事が忙しくなって現実でできることを増やしたくて、そうやってみやこはあの世界から去った。
好きで大切な人、きもち、思い出、いっぱいあったのに全て断って、居場所を捨てて逃げてしまった。
今はもう何も見ていない。
それでも、まだ描きたいネタを消化していないから、いつか舞い戻ってそのときの自分なりにまた描けたらいいとは、思っている。