みやこのしこう

通称みやこ目みやこ科みやこ属みやこの、あんまりいないらしいみやこという生き物の生態のひとりごと綴じ。でもメジャー寄りではないけどオンリーロンリーってほど稀有ないきものではない凡俗。珍獣程度だろうか、ありふれてる虫程度だろうか、自分ではよくわからない。

平気なふりをしているが


ほんとうは平気じゃない


色々したいことがあるはずなのにあー生きてたくないなんて誰もいないところで口から漏れる

あの男は優しい、だが弱い。どうしようもなく弱い。沈黙して、嵐がすぎて忘れられるまでひたすら待つ奴だ。責任をとりたがらない。自分という存在が何かを決することを嫌がる。怖いのか、なんなのか。

ふにゃふにゃと、優しく、ほんとのことを断片的に告げるから嘘にしか聞こえない。ほんとに彼女いるの?とか、遠恋なのになんで通りかかる?とか、少し聞いて、彼女いるなら彼女大事にしなよそんな奴はごめんだと言えばすぐ言葉を翻してうやむやにする。

気になる子に声をかける。興味があっただけ、と言う。

みやこに声をかけたことはない。少しはあるかもしれない。でもみやこはユーモアもスピードもないからうまく返せなくて、それきり他の子に色んな話題やオススメや、話しかけ続けたように声をかけられたことはない。興味をもたれたこともない。みやこは奴が何を好きなのか知らない。

少なくとも、奴を大嫌いで2人のときに奴の話題が出たら早く転勤してくれないかなと心底嫌そうに言うあの子よりも知らない。


奴は好意を持たれたら応えたいという。だから、みやこがいくら嫌なら言って、やめるから、とかサヨナラしたいとか言うと微妙に引き止められた。

それは義理人情だ。あと奴はちやほやされたい。

嫌な顔をして、自分の落ち度ゆえに嫌われたくない。こっちが何もしてないけれど向こうが勝手に嫌った、なら良心が痛むことはないから、きっと奴はそれを待っている。

そうやって、それが余計に怒りに火をつけ罵られてきたことはそこそこるのだろう。奴は慣れてるし聞こえないと言っていた。でも本当は、ただあるその事実だけで心はささくれだつのではなかろうか、みやこは少し心配にもなるが、でも奴を罵っていい機会が巡ってきたときおもいきり罵るだろう。

奴の傷は、わかる、けれど、みやこの感情だって、行き場がないのだ。奴の傷がどれだけ深いかはわからないけれど、でもあんな何も返してくれない卑怯でどうしようもない奴なんて、という気持ちも、正直ある。

それを許せるほどみやこは、色恋を自分のものとしていない、翻弄されまくりだし。

(でも奴に本当に必要なのはそれも込みでひたすら包む優しさなのだろうか、それとも正論の厳しさなのだろうかと考えたりする)

本当は彼女いるということも、仄めかすだけで宣言することすらしなかった。彼女が確認されたら彼女をブタと言ったり、彼女が話でしか知らない奴の上司をダメと言うから僕は上司のためにケンカして云々、大層うざいし彼女を何だと思っているのか。

お前よりかなり専門の正職員で高級取りで社会的な信用もある、多分頭もいい。何より奴と同棲しようというタマだ。絶対にすごい。何年目かは知らないが、結構長く馴染んでいるのだろうと思う。奴は同棲したらきっと別れるなどとラインを飛ばしたが、多分それはみやこに対する引け目だ。

彼女はきっとうまくやる。

多分彼女は上と下で板挟みなのに役職の追いついてない仕事をやめたいのだろう。きっと過酷でストレスフルなニッチな業界だ。

北海道はバカンスになるし、住宅費も安く済む。家が汚ければ運動がてら片付けて居心地をよくすれば彼も喜ぶし、今までの仕事と違った環境で気分転換にもなる。金は自分のがあるし、車も持ってこれる。

それにどのくらいの期間かは知らないが、今更他の新しい男を捕まえる面倒を考えれば今の奴で同棲ならしてみる価値はあるだろう。

という目論見があるのではないかなあとみやこは聞いた限りちょっぴり思う。

あの男とやってきたタフな女なのだ、きっと強い。奴を尻に引くか、愛想を尽かすか、放置しながら奴とは形だけで彼女は彼女でうまく楽しくやるか、みやこは楽しみである。

それに、きっと彼女はあの男をなんだかんだ好きだろう。なんとなくだけど。

話を聞いた限りみやこは彼女とウマが合う気がする。多分同じような界隈を知っていそうだ。本当に奴抜きで会って静かに、だが盛り上がるオフ会をしてみたい。

ちなみに上司も会ったことのない彼女寄りである。


奴はきっとちやほやされたい。

かわいい子と普通の幸せを築きたい。

女というものを全くわかっていない。誉めることも認めることも気を配ることもできない。相手に合わせて話の形を加工して伝えることもできない。

生活が荒んでるからよくミスをしたり忘れる。すると尻拭いの何割か(みやこのできるものは大体)みやこに回ってくる。

職場で奴とみやこがどうしようもなく一部似た人種であることはバレバレなのでみやこが姉だ。7歳年上の弟だ。しかし姉になんとかしてくださいよアレ〜と言われても、奴は基本的に格下と思ってる人種のセリフは聞き流すから、姉だろうと女だろうと奴を改善させるのは至難の技だ。

同棲していて生活を整えてやる(奴の部屋は汚部屋で金の管理もできない)とか、マッサージなりでほぐしてやるとか、気を遣えるならいいが言葉のアドバイスは奴に届かない。

伝え方次第では届くのかもしれない。でも、ひたすら好きで好きで何をどう思っているのか伝えることしかできなかった初期と比べて、今はもう奴に伝えられないとみやこの方が奴の思惑通り諦めかけている。

実際、昔のみやことかなり似ていて、みやこより、より差別的で無意識で信じ込んでいそうだから、みやこはもう諦めている。

ああいう奴が言うことを聞くのは、尊敬している実際に力のある相手とか、とにかくみやこではもう無理だ。あの手この手を試してどれなら伝わるかしらみつぶしにやる気力も時間も気持ちもない。

奴は好かれたい上司とのコミュニケーションを履き違えてて、何度でも教えてくださいと言う。多分あれは本気だ。一度で覚えていろんなこともできるようになって、自由にアイディアを出したり責任を持って行動して、その結果が上司たちの役に立つという発想はないのか、いつまでも構ってもらう上司の下僕でありたいという。それは無能だ。それを良しと思ってるから滑稽で哀れだ。

向上心すらない。最近は修行と、前よりはポジティブにがんばる意欲があるが、あれはいつまでも部下としての修行だ。

最近は笑われながら迷惑ですとかほんとやめてくんないとか各所上司やら彼の認める実力ある先輩たちから言われるが、大人だから笑ってるのであって言葉が本音だろう。だが奴はそれをいい後輩か構われ役的に思っていそうだ。


あとは、うん、考えればまだまだ出てくるだろう。

みやこがどんなに言葉を尽くしても態度や気持ちを表しても申し訳以上に返すことのなかった、嘘は少々、真実は言わない、ただ、成文化されたルールと地位しか見えない視野の小さな小さなあの男。

みやこは自由と実力を目指してひた進むけれど、奴は規律と普通の安寧を求めるのだろう。

ゲームが好きだ。ゲームをするために生きてるような奴だ。ゲームは決められたシステムをがんばれば確実に褒めてくれる。

不確実な自分で拓く未来に怯えるあの男。

あの男は、普通のクソ男だ。


知れば知るほど無理だと思う。

みやことはうまくやれない。

第一印象も、初期も、知れば知るほどとても似ているだったのに。あの誰も信じない、自分と同種なぞいないと疎外感に慣れすぎてこじらせていた目。ゲームとマンガという界隈は間逆だったけど、ネットやツイッター文化で息してて、だらしなくて、自分にはできないことばかりで、コンプレックスに埋もれて、

そのくらいは一緒だったのに。

みやこはゲームしないしね。今は部屋や管理をむしろ得意にしようとしてるしね。

みやこはシステム通りにしかできないのが嫌いなのだ。

彼女の存在は決定打だった。

奴の良いところは、正直もう優しいくらいしか見えない。

みやこが冷たくしてったら業務上での優しくもなくなるだろう。

そんな男だ。

他にもいいところはあるはずだ、真面目だし、ただ、それはみやこの性にあわない。

もうだめだ。だめなんだ。

わかっている。頭では。





それでも好きだったし、オカズにできるのは奴しかいない。

スカートを履くようになった。次は化粧だ。もうだいたいは平気だし奴の隣にいるのはみやこではないと絶対に思う。

もしみやこがかわいくなったら、逃した魚はなどと少しは惜しんでくれるだろうか。それすら思わないだろうか。

そんな風に奴が浮かんだり甘い夢を見たりして、こうして執着を重ねると何も手につかずひたすら泣いてしまう。

まだ平気じゃない。

でも、これはただ今までの慣れに疼いてるだけだ。

きっとそう。

そんな夜に、こうしてただ言葉を吐き出している。

今度会って、みやこの気が済まないってライン飛ばしたけど、奴は責任とる男じゃないからまた無視されるかな。

直接会おうと要求することさえ最初で最後だ。

でも奴はきっとみやこが怖かったのだろう。境界線も常識もセオリーもなにもかもぶち壊して手探りでひた進むばけものは。

みやこに普通という価値観は抜け落ちている。

奴がみやこを好きになることはまずない。



それでも、もし奴が好きと言って優しくしてくれるのなら簡単に何もかも許して流されてしまう自信はある。

そんなことはありえない確信もあるんだけどさ。

嫌になるよドロドロとした甘い夢は本当に呑み込んでのみこんで