ある日落とし穴に転げ落ちるように
恋にはまってしまった。
そんな文章をどこかで見たけれど、まさにそんな感じだった。
初めて会ったのは同僚いや上司として。
怖い人だと思った。
目が怖かった。
でもやけに見覚えのある怖さで、ああこの人は怖くて警戒心に満ち満ちて臆病で、それでもこの新天地で若い子にかわいいアタリがいなくて、全身で絶望してるんだろうと、そんな第一印象だった。
怖い人だった。
とても身近な。
同僚たちもよく怖いとか、あの人の話し方は人を人間扱いしないとかちゃんと対人間として見ないとか、上から目線のくせに上司にはへりくだって、とか言った。
要するに好かれてはいなかったし、あの人も誰も好いてなかったんだろう。
疲れてうんざりしてただ全てが嫌だったんだろう。
みやこは、自分の周りは自分の鏡でできてるのだとおもっている。
自分がてきとうにしていれば周りも見抜いて雑に扱う、大事にしていればそれも伝わる、嫌っていれば嫌われていると悟る、にこにこしてればそこそこ好感度は上がる。
それは、常に不機嫌で死にそうな顔をしていた昔があるからだ。あの頃は世界が灰色で、自分の存在がなぜあるのかわからなかった昔があるからだ。
だから、あの人はあのままじゃ立ち行かないと、いつか心が折れてしまうのではと、みやこは勝手に心配していた。
最初の2ヶ月で派閥みたいなものができて、うまくやれない実力者の人がいなくなって、
みやこは割とみんな好きだったし、特に誰に対しても文句はなかったから、頭悪そうにデキの悪い新人がニコニコニコニコしていて、
うん、その不協和音は、なんとなく悲しげに見てるだけだった。ちょっとだけお礼を渡しただけ。
だから、実力があるのに人間関係ができなくて去らざるを得ない人が発生したとき、
次はあの人が怖い顔を続けて、うまくやれなくなって、いなくなるんじゃないかと怖かった。
みやこはあの人に嫌われていたというか、ただのそこらへんにいる道具くらい興味を持たれてなかったけれど、
みやこにとってあの目は、
昔の自分か昔のみやこのわんこと似たような目に見えていた。
そっくりだし、怯えるきもちがよくわかった。なにも信じられない。希望なんてない。
同じような目をした人が、社会で排斥される存在であってほしくない、そんなエゴでもあったように思う。
そしてみやこがあの人を救えたら。
誰かの大切な人になれたら。
そんな夢を見ていた。
ちっとも望まれていないのに。
みやこのわんこは、人間不信の塊だった。
流行り物が好きな祖母の一目惚れした売れてる犬種、当時人気爆発の高いチワワ、四つ足の獣は飼わないという母もいたのに衝動買いして、みやこが学校から帰ったら家に小さな小さなわんこがいた。
多分高く売るためにすぐ母親と離されたんじゃなかろうか、純血だからか他にも理由があるのか、わんこはとても神経質で王様気質でよく噛んだし暴れた。
小さい子供は、人間でも犬でも手がつけられないのは当然なのに、小さくてカワイイ見た目しか知らなかったのか、祖母はサジを投げて疲れて保健所も視野に入れていた。
多分、祖母は犬でも飼えばかわいさの魅力に家族が仲良くなるかもしれないという夢を見たのかもしれない。
母はとても祖母が嫌いだった。姑だったのもあるだろうし、性格がどこまでも合わなかった、最悪なまでに母は祖母が嫌いだった。素直で図々しく行動力がありなんでも叶える強い祖母を、母は顔を合わせたら笑顔でハイハイ言いながら心を許したことも近づこうとも一切しなかった(ちなみに私は性格がとても祖母に似ていて、母と和解するまで10年はかかった)。
私は、色々と自覚するまでは大変おとなしかったから母寄りで、当時強気でアクティブな祖母は面倒くさくも怖くもあったし、犬は祖母に任せきりで関与することはなく、犬を飼い始めて1年後に祖母は倒れて寝たきりとなり、家を去った。
ストレスと、こんなはずではと、きっと思ってたのではなかろうか。
みやこは、数年も期間があって、近くの病院にいたこともあったのに、一度しかお見舞いに行かなかった。
クズすぎて、親孝行はせめてしようと後から思う。
そうやってよく知らない一階に住んでた犬は、みやこのわんこになった。
みやこと同じ誰も信用しない目、わかる、わかるよ、そのきもち。
色々あって、3年ほどで甘噛みくらいになり、5年で完全に警戒しない抱っこできるようになり、7年で猛烈ダッシュできなくなり、10年後にはみやこの兄弟でも恋人でも相棒でもパートナーになった。
いつかわんこ様とのはしょった部分や、ごめんねと言いたいところも語りたい。たくさん、ごめんね、ごめんね、と言わなくてはならない。
死んだ後で、もう、魂の半身じゃなかろうかとか、みやこコレもう未亡人じゃないかな、なんて。
思って、恋人とか要らねーなお犬様がいたから、って思っていたけれど、
あの人と出会ってしまったので、
お犬様は性格あわないところも結構あったから、共に過ごした時間により全く違う人格がまろやかになっただけで、魂の半身ではなかかったのかな、なんて思ったりもしたのだが、とにかくとても大事なパートナーだった。
あいしている。
そんなお犬様と同じ感じを受けたのだ。
あの人は第二のわんこの素質があると思っても仕方ない。
それに、もう一つ理由があって。
みやこが本命ジャンルと出会うとき、だいたい最初は第一印象悪いのだ。
1.記念すべき最初の活動ジャンル
「は?何これ全然おもしろくもかわいくもねーしwwwつーか人外wwwマッチョ全裸www気にもならないからwww(と言いつつ毎週流して、でも気になっていると認められず新聞を読みながら音声聞いて、だんだん録画して見て消して、ちょっと二次漁ってあーーーーーと諦めて認める。はまる。)」
2.次のジャンル
「本命からどんどん人流出してこのジャンル来てんだけどそんなおもしろいん?んなことねーべ絶対はまらねーし………」(落ちる)
3.「マンガ自体はくっそおもしれーけどそろそろネタ切れかな…新キャラどんどん投入しやがって…初期のキレッキレのノリ好きなのに邪魔しないでほしい…なんか二次じゃ人気あるぽいけどこのキャラ………(どハマり)」
4.「何この貞子wwwどうせ後で主人公サイドに下って和気あいあいしたり共闘しちゃったりすんだろ人気出そうなポジション狙いが………(そんな人気取りをせず己の生き様を貫きどどハマり)」
8年活動してて、だんだん原作厨寄りになって、去年死ぬほどマンガ描いて、ああ、今年もいっぱい描けるのかな、それともここで描き尽くしちゃって、みやこはまた変化するのかな、なんて予兆は感じていたのだけど。
それから2ヶ月。
全く好かれていないみやこは、
落とし穴にはまったように、
これまでジャンルの嫁のことばかり考えていた代わりのように、
いなくなってしまったお犬様兼わんこの代わりのように、
あの人のことばかり、
脳内が埋め尽くされた。
最初はただ救いたくて、その近付くための手段がほしかった。
警戒を解いて、安心して生きてほしくて、近付く理由がほしかった。
でも、実のところ、理由が先か気持ちが先かはわからない。
みやこの好きは救済でもあるし、みやこでも好きになれるのではないかという甘えを乞う許しなのかもしれない。
ただの相手を、気持ちを、理不尽をエゴを舐め尽くしたいという食欲でもあるかもしれない。
みやこという生き物は、そういうものがほしかったのだろう。
(未整理打ちっ放し続く)