みやこのしこう

通称みやこ目みやこ科みやこ属みやこの、あんまりいないらしいみやこという生き物の生態のひとりごと綴じ。でもメジャー寄りではないけどオンリーロンリーってほど稀有ないきものではない凡俗。珍獣程度だろうか、ありふれてる虫程度だろうか、自分ではよくわからない。

みやこが恋をする前


みやこは恋だけは縁がないと思っていた。

みやこは、後々はなすだろうけど、今流行りの⚫︎虫ペ⚫︎ルでいうと、御⚫︎筋くん側の奴だった。

世界が嫌い、社会が求めてくる「好ましい」が性に合わない。

女の子らしいなんて知らない、かわいくなんてなりたくない、つーか可愛い子になったって体求められたりとか便利な家事扱いされたり、「もっとかわいく」が何のためかわからない脅迫観念になってたり、女同士の嫉妬オンザステージであることないこと陰口だったり、ロクなことないし。

それならぼくは1人で生きたかった。

そのくらい強くなりたかった。


でも現実が見えてなくて、あっちへふらふらこっちへふらふら、いや本当は人間が嫌いで嫌いで、人間でいたくなかった。せめて仙人か、人間じゃないものに近付きたかった。

大学では森とか海とか海外に行って、大学を出たら田舎の自給自足みたいな暮らしもしてみたりして。

でも、薄々気付いてはいたのだ。


みやこは人間の形と機能を持っていて、いくら人間の一線を越えようとしてもそこまで努力も執念もできないし、そんな生活に慣れたり追い詰められるほどの環境でもなかったことに。


高校生くらいの年ならできた、野宿も大丈夫だったし、半年に一度は夜のピクニックのごとく夜な夜な歩き通して路上でもどこでも寝てたりして、どういう所が体を休めやすいかとかそんなコツもあったりした。

でも、体を鍛えてない二次創作描きは体衰えてて、寄る年波に勝てなくなって、次の日寝込むようになって諦めた。沼で遭難もしかけて諦めた。

都会というわけじゃないけど、壁があって布団で寝て虫もでなくて温かいお湯の出る環境で育ったみやこに、山で永遠に生きるのは厳しかった。

みやこは、怠惰で、弱い。



でも、みやこには女の子らしさを求める気持ちがわからなかった。

自然に、かわいく、女の子らしく、

それは一切なくて、化粧やオシャレを抵抗なく自然にする子を、別の生き物を見るようにいつも不思議そうに見ていた。少なくとも、向こうもこっちも同じ生き物だと思ったことは一度もないだろう。

なんでしたいんだろう、正直それは未だにわからない。

みやこは、人の目とか、人のため、に何かする気が全くない。0だったんだろうとおもう。

色々こじらせてて、何個か理由や反発もあっただろうけど、根本的に人に好かれるために何かをすることがわからない奴なのだ。



だから、誰かに好かれる恋は一番ありえないと、それこそ常識か暗黙の了解か不文律か絶対のルールのように、当然ありえないと思っていた。

カレシカノジョ恋人がほしい奴は、みやこのような見た目をしているはずがない。

カレシほしくないの?と聞かれたら、みやこは、

何故そのようなことを聞くのだろう?みやこを見ればそういうものに適応した見た目でないのだからわかるだろう?ああ、確認作業

などと思っていた。



かわいい子には、男や金がよってくる。

かわいさには利益がある。

道を歩けばサービスされたりもう使わない金券やら1日乗り放題券を 「俺使わないからあげる」とかされたり、行き先ではおごってもらえたり、見た目の美により仕事を得て食い扶持も稼げる。

そのための出資と努力ならばみやこは納得できる。

「女の子」が料理や家事を磨くのも、初めて恋をして、なるほど大事なことなのだと思った。家庭的でもあるというのは、「女の子」にとって大いに武器だ。

結婚しなくたって自活力あるほうがずっと生きるのに有利だしね。

みやこの武器は精神でしかない。

そのうち生活力もマスターしたいものである。男のため、は2割、自分のため8割で。


でも、ファッション誌を見て化粧品を買って装いたい衝動はわからないし、やっぱり好きでもない男に寄られるのは個人的に耐え難い。もちろん彼女らは平気か好きか(優越感的な意味で)耐えられるからやっているのだろうが。

もしかしたらそのようなリスクが見えてない女の子もいるかもしれないが、というか、一定数いるような気はするが。カワイイのが好きで、かわいくするのが当然で、かわいくしない理由がなくて、カワイイ女の子の世界でかわいい女の子たちとともに生きてきた、ただし男のためではなく女の子のために、という女の子。


それは、まあいい。

それにこう言ってはなんだが、みやこは美が好きだ。

美しいバランス、美意識、繊細でセンスあるこだわり、配色、形、シルエット、曲線と直線、通にしかわからない小粋なエッセンス

これがみやこの好きな「美」だ。

(ちなみに、みやこは平面には強いが立体に弱いので、奥行きを感じさせる要素はない。

どうやったら三次元、立体感も感じられるかが最近の課題のひとつだ)

多分、みんなといっしょであたしも仲間にいれて、というカワイイの同族意識が嫌いなのであって、

オシャレやファッションの基礎をちゃんと学んだ中に、センスある一癖をうまくキメているものは好きだし尊敬する、といったところか。


みやこもそのうち化粧まで達することができるだろうか。

今のところ、化粧、スカート、アクセサリーまではいけないけれど、服はそこそこ気をつけるようになったのだ。

ひどいアトピーで肌がめちゃくちゃ弱かったのと、髪を伸ばしたことが生まれてこのかたなく、男に惚れてから伸ばそうとしたものの女性ホルモンの少なさにいつになっても後ろ髪が伸びない。

スカートはふんわりした髪とセットが入門編だという、個人的な偏見がある。

化粧でも髪でもごまかせない、拘束感が嫌いでアクセサリーもつけられない、この状態でスカートだのフェミニンだのは、どうも一足飛びにすぎる。

誰かオシャレ講師をしてほしい。みやこに、こうすればみやこでもキレイになれるんだよって方法が、もしあるなら教えてほしい。

今年1年はそんな風にがんばって、それでやっと身だしなみ段階なのだ。

笑えよう。

みやこは自分のために抗って生きてきた。ふつうの女の子なぞ、できるはずがなかった。


でも、ふつうの女の子にも男の子にもできないことがあったから。

みやこと似ていたあの男なら、みやこを好きになって、必要としてくれるんじゃないかと、そんな甘いことを、ちょっとだけ、いや、じつは、けっこう、おもっていたのだけど。



それは今するはなしではない。



しかし獣であった頃も、フィールド調査に出て、ダニとかノミとか出るのに平気で慣れっこの同世代の女の子もいて、この界隈は猛者ばっかりだな……って、

みやこは強くなりたかったのに、そういう子にも負けるひ弱さなのだ、って思い知らされて、もう住むなら都会万歳になった。

本も好きだった。むしろ本が好きだった。今は詳しくはなさないけど。要はインドアの動くのが嫌い派だったから。

寒さに震えてインフラも整ってなくてハエとカメムシがどこからでも湧いて、確かにいつも満天の星に水も空気もおいしいし、銀の雨のような綺麗さに、良いところではあったけれど。

慣れる前にみやこは逃げ帰って、人間になる道を選んだ。


なににもなれないほど、どうしようもなくよわい。

ただ弱いだけなら、「か弱い」という居場所もあっただろうに、

弱くなさそうだからどこでも半端者なのだ。